東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)15号 判決
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原告 ビレジ バス プロダクツ、インコーポレーテイド
右訴訟代理人 宇井正一
被告 特許庁長官
熊谷善二
右指定代理人 内正秀外一名
〔主文〕
特許庁が、昭和五二年一〇月三一日、同庁昭和五一年審判第四〇七七号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
【判旨】
第二当事者間に争いのない事実
一特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四七年一〇月二三日、別紙一の構成からなる商標(以下「本願商標」という)につき、指定商品を第四類、化粧せつけん、シヤンプー及び他のせつけん類、乳液、ひげそり用化粧水、オーデコロン、スキンローシヨン及び他の化粧水、ヘアートニツク及び他の頭髪用化粧品、バスソルト、浴用オイル、あわ立て浴剤、浴用乳剤及び他の浴用化粧品、香水類、香料類、及びその他の本類に属する商品として、商標登録出願したところ、昭和五〇年一一月二〇日拒絶査定を受けたので、審判を請求した(昭和五一年審判第四〇七七号事件)。特許庁はこれに対し、昭和五二年一〇月三一日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年一二月二一日、原告に送達された(出訴期間三ケ月附加)。
二審決の理由
本願商標の構成、登録出願年月日および指定商品は、前項掲記のとおりである。
これに対し、別紙二の構成からなり、第四類、化粧品その他本類に属する商品を指定商品とする商標(以下「引用商標」という)が昭和四四年一一月一八日、登録出願され、昭和四六年八月一六日、その登録がなされている(登録第九二二八四号)。
そこで本願商標と引用商標の類否について判断すると、本願商標は、別紙一に表示したとおりの文字及び図形からなるものであり、それぞれが独立して自他商品識別標識としての機能を有する部分と認められる。しかして、この種の商品を取り扱う業界においては、しばしばフランス語が用いられている取引の実情からして、本願商標中上部位置にやや円弧状に書き表わされている「VILLAGE」の欧文字も又、フランス語読みの「ビラージユ」の称呼をもつて取引に資する場合も決して少くないものといわざるを得ないから、したがつて、本願商標から生ずる称呼は、「ビラージユ」の称呼をも生ずるものというを相当とする。
他方、引用商標は、前記構成のとおり、「BELAGE」の欧文字のすべてを大文字で連書してなるものと認め得る。しかして、本願商標について述べた如く、引用商標も又、フランス語風読みに、かつ連音をもつて発音するのが最も自然的称呼といわざるを得ないから、したがつて、引用商標から生ずる称呼は「ベラージユ」の称呼をも生ずるものというを相当とする。
そこで、本願商標から生ずる称呼「ビラージユ」と引用商標から生ずる称呼「ベラージユ」の両称呼を比較するに、両者は共に長音及び促音を含んでの三音よりなるものであり、その異るところは、頭音「ビ」と「ベ」の音の微差にすぎず、他の配例構成音を全く同じくするものと認められる。しかして、「ビ」と「ベ」の音は同行音に属し、しかも子音を共通にするものであるから、第二音(ラ)以下を接続させ一括して称呼するときは、聴感必ずしも明確でない場合も有り得るものと認められる。それ故に、両者を全体として一連に称呼するときは、誤韻語調において近似し、草々の間にあつては、彼此聴き誤まるおそれがある程度のものと判断するのが相当である。
してみれば、本願商標と引用商標とは、その外観及び観念の異同について論及するまでもなく、称呼上類似の商標であり、かつ、両商標の指定商品もまた同一のものと認められるから、結局、本願商標は商標法四条一項一一号に該当し、登録することができない。<中略>
第四当裁判所の判断
一原告の主張(一)について
<証拠>によれば、villageという単語は、中学二年程度で修得すべき基本英単語であり、「ヴイレツジ」と発音し、村を意味するものであることが認められる。また<証拠>によれば、villageは、フランス語の単語でもあり、「ヴイラージユ」と発音し、やはり村落を意味する頻用度の高い用語であることが認められる。そうすると本願商標の「VILLAGE」は、語学的にみれば、英語読みとフランス語読みの二つの称呼が生ずると一応いえる。
しかし、商標の類否判断は、一般の取引者、需要者が誤認、混同するかどうかという見地から判断すべきであるから、本願商標の称呼については、純語学上の見地からではなく、化粧品の分野における一般の取引者、需要者が、通常どのように称呼するかという見地から検討しなければならない。
ところで、日本においては、義務教育の段階で英語が必須の教科となつており、また日常用語としての外来語も英語が圧倒的で、外国語のなかでは英語への理解度が最も高いことは公知の事実であるから、化粧品の分野においても、一般の取引者、需要者は、少なくとも中学初級程度の平易な英単語については、これを英語読みに発音することのできる程度の水準にあるということができる。
被告は、化粧品の分野では、フランス語が使用されていると主張する。
そこで、その使用の実態について検討すると、<証拠>によれば、化粧品の商品名として、英語の単語をしのぐほどフランス語の単語が使用されているが(しかし、化粧品を示す普通名詞としては、クリーム、ローシヨン、パウダーなど、ほとんど英語が用いられている。)ほとんどは、片仮名を使用し、あるいは、欧文字のスペリングに片仮名をふつて、フランス語の単語として称呼させていることが認められるうえ、更には宣伝用パンフレツトにおいて、「インウイはフランス語で「たぐいまれな」とか「比類なき」という意味です。」あるいは、「アンフイニ=無限」、「フルール ド ロカイユ=石の花」、「ナルシス ノワール=黒水仙」、「ヌイ ド ノエル(クリスマスの夜)」などと記載して、商品名として使用したフランス語の単語の意味を解説し、これによつてフランス語特有の語感を化粧品のイメージに結びつけようとしているものであることも認められる。そして、化粧品の取引において、フランス語読みが英語読みより一般的であることを認めるに足りる証拠はない。
もとより、日本においては、義務教育の段階でフランス語が必須の教科となつておらず、英語ほどには理解されていないことは公知の事実であり、また、化粧品の分野においても、商品名としてのフランス語の使用の実体が右認定のとおりである以上、一般の取引者、需要者は、仮名をふつてないフランス語の欧文字のスペリングを見てそれがフランス語のなかでは平易であつても、これをすぐにフランス語読みに発音することのできる程度の語学水準にあるとはいえず、それができる実情にあるとも解されない。まして、スペリングが英語とフランス語で同じで、しかも仮名をふつていない場合には、英語読みに発音するのが通常であるといつてさしつかえない。
してみれば、本願商標の「VILLAGE」は、前記のとおり語学上は、英語読みとフランス語読みの二つの称呼が生ずるが、これは、中学二年程度で修得すべき基本英単語であり、しかもフランス語読みの仮名はふつていないのであるから、化粧品の分野における一般の取引者、需要者は、これを見て、英語読みの「ヴイレツジ」と称呼するのが通常であり、フランス語読みには称呼しないということができる。まして、「VILLAGE」はアメリカ合衆国の会社である原告の商号と共通しているのであるから、なおさらのことといわなければならない。被告は、フランス語読みの称呼をも生ずると主張するが、それは、一般の取引者、需要者の語学水準を基準にしたものではなく、かように発音されることがあつても、それは例外的といわざるをえないから、採用できない。
二そうすると、引用商標の称呼が「ベラージユ」か「ベルアージユ」か、いずれであるにしても、本願商標と引用商標は称呼上類似とはいえない。したがつて両者を称呼上類似とした審決の判断は誤りであるというほかなく、違法であるから、審決は取消を免れない。
(小堀勇 小笠原昭夫 石井彦壽)